僕らの声を聴け「村上春樹の作品群」

picg『ノルウェイの森』までは、彼の作品が好きなだけではなく、彼の作品を好きだとちょっと誇らしげに言っていた。なのに『ノルウェイの森』以降は、そう言うのがちょっと気恥ずかしい。もしかしたら、自分だけが知っている気に入りの作家、売れて欲しくない、余りメジャーになって欲しくなかった作家だったのかもしれない。勝手だけど。

私のベストは『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』。妻のベストは『1973年のピンボール』。そして2人とも『羊をめぐる冒険』が好きだし、「羊男」も、「いるかホテル」も気に入っている。彼に影響され、フィッツジェラルドも、レイモンド・カーヴァーも、マイケル・ギルモアまで読んだ。『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』を読み、アイラ島のシングル・モルトが好きになった。もちろん、「村上朝日堂ホームページ」もチェックしたし、丁稚のいがらしさんの故郷である村上市を訪ねたりもしたのだ。

でも、なぜか今、大声で村上春樹が好きと言えない。『ねじまき鳥クロニクル』も刊行を楽しみにしていたし、『アンダーグラウンド』や『海辺のカフカ』の酷評にも絶え、『アフターダーク』を読み脱力しても、今でもこっそり宣言する。私も妻も村上春樹が大好きなのだ。

なのになぜ、今、こんなヘビーな読者も、村上春樹を好きだと声を大にして言えないのだろう。『遠い太鼓』も、『地球のはぐれ方』さえも、きちんと読んで楽しんでいるのに。んー、なぜだろう、こんなに好きなのに。何を書いてもたいがいは暖かく受け入れ、買ってしまうのに。安西水丸さんが描く「似顔絵イラストの丸顔」を思い出しながら。

僕は地下鉄銀座線の外苑前駅を通るたびに思うのだ。この地下に「やみくろ」がいて、もぐらの穴のような迷路に今もまだ「僕」が彷徨っているかもしれないと。

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